いつも世界の女性、世界の子供たちのために日々努力し頑張っていただきみなさん本当にありがとうございます。
本日は岡本先生に代わり、齋藤が担当させていただきます。
さて、私は産婦人科の医師になって現在12年目になります。今から12年前と言いますと、ようやく婦人科でも腹腔鏡を使った術式が主流になり始めた頃であり、抗がん剤に関しても卵巣癌で分子標的薬であるアバスチンの使用が適応になった時期でもあります。それからこの10年間で、手術の術式や抗がん剤の治療法は大きく変化し、今では内視鏡手術はもちろんDa vinciなど医療用ロボットを使った手術が爆発的に増えてきており、婦人科薬物治療の領域では分子標的治療薬だけでなく免疫チェックポイント阻害剤も台頭し始め、近く抗体薬物複合体、いわゆるADCを使った治療が開始となります。しかしその一方で、これまでに予期しなかった副作用や合併症が出てきたことも事実で、中でも免疫チェックポイント阻害剤は治療効果が非常に期待できる反面、生命に関わるような免疫関連の有害事象が多種多様にあり、日々悩まされていることも事実です。
なぜこのような話をしたかと言いますと、昨日のネットニュースに「人工赤血球を用いた治験が開始へ」という記事が掲載されており、もし近い将来、人工赤血球が実用化できれば、産婦人科領域にも大きな影響があると期待をしたからです。
期限切れなどで大量に破棄されるはずだった血液製剤からヘモグロビンだけを抽出し、人工の油膜でカプセル化し、小さな微粒子状にすることで酸化を抑えることができるようで、冷蔵保存であれば約5年間も保管できるようです。そもそも血液型がないので交差試験がいらないこと、感染の可能性がないこと、Hbの濃縮率が高いので効率の高いHbの上昇が期待できることなどが大きな利点で、もし実用化ができれば、非常に簡易的かつ迅速に使用ができるため、血液の不足した地域での産科出血の対応はもちろん、術中出血や貧血が予測されるような患者にもおおいに有効活用できるのではないかと容易に想像がつきます。また、抗癌剤による貧血症状は治療のコンプライアンスの低下につながる大きな要因の一つであり、こうした人工赤血球の活躍により、貧血の予防や改善に寄与することで癌治療の予後にも影響が出てくるかもしれません。しかし、その安全性や副作用においてはこれから明らかなになっていくものなので、予期しないような副反応が出て、これもまた日々の診療の中で悩まされる時期がくる可能性もあります。
日常の臨床や研究、そして教育は非常に忙しいですが、そんな中でも、人工赤血球のような、これまで誰も想像しなかったような治療を発見できるよう、常に目を見張り思考を凝らしながら、これからも頑張っていきましょう。今週も1週間どうぞよろしくお願い致します。