附属病院(本院)産科は、2001年に総合母子健康医療センターを開設して以来、東京都の地域周産期母子医療センターの役割を担い、母体、胎児、新生児の医療を一貫して行っています。分娩数は年間約900件、うち帝王切開術が約300件で、正常妊娠のみなら母体搬送も積極的に受け入れています。母体胎児専門医や超音波専門医、臨床遺伝専門医が多数在籍しており、小児科医、小児外科医、小児心臓外科医、小児脳神経外科医、麻酔科医などと密接な連携をとり、様々な合併症妊娠や胎児異常を多く取り扱っています。母体血清マーカー、絨毛・羊水染色体検査、NIPT等の出生前診断、定期的にカンファレンスを行っています。さらに、妊娠中に発生した重篤な産科救急疾患(前置胎盤、癒着胎盤、常位胎盤早期剥離等)の受け入れを24時間体制で行っています。患者さんのご希望に応じて無痛分娩も行い、より安心して妊娠から出産に臨める環境づくりに力を入れています。
日常診療のみならず、研究、教育にも力を入れています。定期的に勉強会や抄読会を通して、日々知識の向上、スキルアップを目指しています。また、国内外問わず学会への参加も積極的に行い、症例報告や臨床研究の成果を発表する機会を設け、日々の診療に役立てる努力をしています。院内で新生児蘇生法(NCPR)講習会を開催し、院内スタッフの教育にも力を入れています。
今後、新病棟の設立も予定されており、新生児集中治療室(NICU)のさらなる充実化および母体・胎児集中治療室(MFICU)の整備を行い、新たな総合母子医療センターとして充実した診療を提供していきます。
当院では不妊症および不育症の専門外来を設けています。私たちは不妊症と不育症を別個のものとしてではなく、病態の一部を共有するものと考え、日々の診療にあたっています。この両専門外来間ではシームレスに治療を行い、さらには産科系外来とも緊密に連携をとることで、妊娠成立から出産に至るまで、継続的な医療を提供しています。
当院の特徴としては、卵巣予備能低下症例(早発卵巣不全など)の治療に豊富な経験を持つこと、若年がん患者さんの妊孕性温存のためのがん生殖医療に積極的に取組んでいること、また、大学病院の特色を活かし、合併症を持つ方の治療や手術を要する難治症例にも対応しています。
1.子宮内膜症や子宮筋腫、子宮内膜ポリープなどの疾患を合併している不妊症の方に対し、腹腔鏡や子宮鏡を用いた低侵襲手術を行っています。
2. 悪性腫瘍などに対する抗がん剤治療や放射線療法により、妊孕性喪失の可能性がある患者さんに対して、男性であれば精子凍結、女性であれば胚や未受精卵の凍結を行うことで、妊孕性の温存をはかります。
3. 40歳以降の高齢不妊症例や、若年で卵巣予備能の低下を来す早発卵巣不全症例など、難治症例に対する豊富な臨床経験があるのも当部門の特徴です。妊娠をめざす治療を中心としながら、残念ながら成果が得られなかった場合の、不妊治療終結の在り方についても、カウンセリングを含めた取組みを行っています。
4. AYA(Adolescent and Young Adult)とは思春期および若年成人の略称であり15歳から39歳までの世代を指します。AYA生殖カウンセリング外来では、がん生殖外来よりもさらに若年の患者さんを対象としております。がん治療後に小児科で経過観察されていた患者さん(がんサバイバーの方)が成長していく過程で経験する思春期の体調の変化に焦点を当て、将来妊娠する可能性の評価や学校生活や社会での活動などの支援・カウンセリングを行います。
5. 不育症外来では不育症の原因に応じて治療を行っています。
抗リン脂質抗体症候群患者およびプロテインC欠損症などの血栓症素因患者に対するアスピリン・ヘパリン療法を中心とした抗凝固療法のほか、原因不明不育症に対する夫リンパ球などを用いた免疫療法なども行っており、約85%の成功率を得ています。
附属病院(本院)婦人科は、岡本愛光教授、専門医14名、後期レジデント6名の21名(2020年4月時点)で診療を行っています。慈恵医大は、本院、葛飾、第三、柏の4病院を合わせると本邦一の婦人科悪性腫瘍数を誇り、とりわけ卵巣がんの患者さんが多くいらっしゃいます。本院の婦人科悪性腫瘍手術は年間約150件を超え、婦人科腫瘍専門医を中心に、広汎子宮全摘出術から卵巣がんのcomplete surgeryまで幅広く行っています。また、臨床試験や治験にも積極的に参加し、標準治療はもちろん、最新の治療についても情報提供し、患者さんにとって最善の医療を提供しています。“世界の女性を幸せにする”を目標に、温かい雰囲気で患者さん主体の医療を目指しています。
あらゆる患者さんに対して適切な診療を提供し、QOLを向上させるため様々な取り組みを行っております。毎週Tumor Boardを開催し、治療方針や患者さんの問題点を話し合い、スタッフ全員で情報を共有しています。また、毎日病棟カンファレンスを行い、日々の小さな変化にも極め細やかに対応するよう心がけています。緩和ケアチームとも密に連携し、症状緩和はもちろん、婦人科がん患者さんを様々な側面からサポートする体制を整えております。月1回病理部、放射線部との合同カンファレンスも開催しています。
悪性腫瘍手術はもちろんのこと、JMIST(Jikei minimally invasive surgery team)を結成し、腹腔鏡下手術にも力を入れています。より低侵襲で整容性に優れた術式として、良性卵巣腫瘍に対する低位単孔式腹腔鏡下手術を導入しました。慈恵医大で継承される樋口式横切割法を応用し、軟性鏡を用いて、恥骨上縁の小切開のみで卵巣腫瘍核出術を行います。
臨床のみならず、研究及び教育にも力を入れています。全科共通の臨床ラボにおいて卵巣がんを対象とした基礎研究を中心に行っているほか、国外留学・国内留学(国立がん研究センター研究所、東京大学)に派遣を行っています。国際学会にも積極的に参加し、臨床研究及び基礎研究に関する成果を世界に発信しています。
慈恵医大葛飾医療センターは、患者さんの多くが葛飾区内から来院される地域密着型の病院です。診療部長の斎藤元章准教授を中心に、スタッフ15名で診療を行っています。近隣の産婦人科医院から患者さんを多数ご紹介頂き、一般的な産婦人科診療から高度な医療技術が要求される悪性疾患などまで幅広く対応し、地域との連携を大切にしています。手術件数は年間500件超、うち悪性手術は約70件、腹腔鏡下手術は約180件と低侵襲な手術にも力を入れています。分娩数は年間約230件、帝王切開術は約70件で、近隣の分娩施設と連携し、合併症妊娠を中心にお受けしています。外来患者数は約2400人/月で、婦人科外来5ブース、妊婦健診1ブースで診療しています。産婦人科救急疾患も24時間対応しています。
平成24年に「青戸病院」より「葛飾医療センター」としてリニューアルオープンしたため、外来・病棟共に新しく清潔感があり、患者さんからご好評を頂いております。婦人科悪性腫瘍は、婦人科腫瘍専門医を中心にガイドラインに準じた標準的治療を提供し、診断・治療以外の問題点にも丁寧に対応することを心がけています。産科は、平成21年度から東京都周産期連携病院に指定され、地域の中核病院としての役割を果たしています。毎朝スタッフ全員でカンファレンスを行い、入院患者さんの状況を把握し、特殊な外来症例などについても検討しています。スタッフ全員が全患者さんを把握し、日々チーム医療を実践しています。早朝カンファレンスの後、それぞれ手術、外来、病棟業務へ向かいますが、上級医から若手医師まで学年の壁を越えてつながりが強いことが魅力です。
慈恵医大第三病院は、医学部医学科・看護学科の校舎を併設した、緑豊かな地域密着型の病院です。
狛江市、調布市、世⽥⾕区や多摩地域と連携し、一般診療から⾼度医療まで地域のニーズに幅広く対応しています。産婦人科専門医5名、ほかスタッフや後期レジデントで診療に当たっています。婦人科腫瘍専門医や腹腔鏡技術認定医も在籍しております。
分娩件数は決して多くはありませんが、正常分娩だけでなく、ハイリスク妊娠管理も行っております。⺟体搬送を積極的に受け⼊ており、地域の病院と連携して安全と安心を提供できるよう努めております。またセミオープンシステムを利用し、患者様のニーズに合わせ妊婦健診は近隣の産婦人科クリニックで受けて頂き、分娩や夜間休日の救急対応などは当院で行うことで、地域の母児にとって安全かつ無理のない周産期医療を行なっております。 手術症例数はコロナによる制限も緩和し、近年は年間約380件、悪性腫瘍手術は約60件で、外科や泌尿器科と連携し進行がんの手術も施⾏しています。また、腹腔鏡下手術は約160件施行し、年々増加傾向にあります。外来患者数は1⽇約80名、周産期、婦人科腫瘍以外にも女性医学分野の診療や、不妊外来も行っております。一般不妊治療を⾏っており、卵管造影検査や精液検査も可能です。2023年には人工授精19件を施行しました。
毎朝スタッフ全員が顔を合わせ、当直医からの報告などを共有し、夕⽅は病棟カンファレンスを⾏い、⼊院患者の状況をチームとして把握します。また週1回手術症例、病棟症例、外来症例の検討を⾏っています。放射線科・病理部と定期的にカンファレンスを開催し、知識の向上に努めています。
周産期は、⼩児科、麻酔科、外来および病棟助産師と協⼒して、安全安心な妊娠・分娩管理を目指しています。また、多職種合同の周産期カンファレンスを定期的に⾏っています。2020年からはソフロロジー式分娩法を取り入れ、満足度の高い自然なお産を目指しています。
婦人科腫瘍に対しては、ガイドラインに沿った標準治療を⾏いますが、国内外の婦人科腫瘍グループと常に連携し、最新のエビデンスに基づいた治療法を取り⼊れております。
第三病院では外来診療、不妊外来を中心にママさん医師が非常に活躍しており、和気あいあいとスタッフ一致団結して診療にあたっています。
また、2026年1月より新病院へと生まれ変わります。地域の繋がりを大切にしつつ、明るい新たな医療提供に向けて常に進んで参ります。
慈恵医大柏病院は地域の中核病院としての役割を果たすと同時に、悪性腫瘍、周産期の拠点病院として高度医療を提供できる環境が整っています。高野浩邦診療部長を中心に、産婦人科専門医9名、後期レジデント7名で診療にあたっています。手術件数は年間約930件、悪性腫瘍手術は約240件、腹腔鏡下手術は約300件、ロボット支援下手術は約50件です。手術件数が大変多いですが、毎週手術カンファレンスを行い、術式や周術期合併症に関してスタッフ全員で検討しています。悪性腫瘍については手術療法以外にも化学療法や放射線療法を行い、標準治療に準じた最適な医療を患者さんに提供しています。また、臨床試験や治験にも積極的に参加しており、患者さんに情報提供を行っております。分娩件数は年間約370件で、正常妊娠、分娩のみならず、他科と連携しながら様々な合併症を抱えたハイリスク妊娠を管理し、母体搬送も出来る限り受け入れています。
手術件数、入院、外来患者数が非常に多く、緊急手術や母体搬送などの救急対応も多いですが、高野診療部長を中心にチームワークで対応しています。 私たちの日常診療だけでなく、今後の医療の発展に役立てるべく、豊富な婦人科悪性腫瘍の臨床データの蓄積、検討を行っています。
また、緩和医療にも力を入れています。緩和ケアチームと連携し、各部門のコメディカルも交えて定期的にカンファレンスを行い、患者さん一人ひとりにあった緩和医療を行うように努めています。
周産期部門も充実し、小児科の先生の協力も得て積極的に近医からの母体搬送や紹介患者さんを受け入れています。